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昔ながらの直火釜を使って熟練の職人がふっくらと炊き上げた佃煮や惣菜。江戸前の海産物をはじめとした国産素材と選び抜かれた調味料を使用したこだわりの味をご賞味下さい。
寒くなってくると始まる海苔の収穫。海苔は1年を通して冬の間しか収穫できないものです。海苔の収穫には海水温が13℃程度まで低くなることが条件とされているため、収穫時期は地域やその年の天候に左右されますが、11月ごろが初摘みの時期となります。海苔の主な産地は、佐賀、福岡、熊本などの九州と瀬戸内海や東京湾沿岸など。遠忠食品では、東京湾沿岸で採れる海苔にこだわって仕入れ、佃煮をつくっています。
今から104年前の大正2年、初代・宮島忠吉さんが遠州(現在の静岡県)から上京し、深川住吉町で佃煮や惣菜の製造販売を始めたことが遠忠食品の始まりです。昭和20年には、現在の東京都日本橋蛎殻町に移転。江戸前の佃煮を売るにはぴったりの場所でした。
ところが高度成長期以降、江戸前の佃煮は減少の一途をたどったのです。それは、急速に進んだ日本の工業化に伴って東京湾沿岸の開発も進み、海が汚染され、佃煮の原料となる貝類や藻類を採る漁師さんたちが漁業権を放棄してしまったからなのです。遠忠商店でも江戸前の素材が手に入らなくなり、原料は輸入品に変わっていきました。
▲江戸前の海苔でつくられた佃煮。炊きたてのご飯と佃煮は日本の伝統食とも言えます。
三代目となる現社長の宮島一晃さんは若いころ、目の前に東京湾があるのに、なぜそこで採れたものを使わないのか疑問に思ったそうです。宮島さんは、東京湾の漁師さんや漁協に地道に連絡を取っていくことを始めました。するとそのうち、東京湾で採れたアサリや海苔を分けてくれる漁師さんたちとのつながりが生まれてきたのです。「とにかく地元産にこだわって作りたくて」という宮島さんからは、江戸前漁業の衰退をなんとか食い止めたいという強い想いを感じます。
海苔の佃煮のつくり方は、素材に醤油、砂糖、味醂を加え、煮汁がなくなるまで炊き上げるというシンプルなもの。それだけに、素材や調味料の良さ、丁寧なつくり方が味の決め手となります。遠中食品では、東京湾で採れる海苔や貝などの素材にこだわり、味付けには化学調味料や合成添加物を使用していない調味原料を厳選して使っています。
▲創業以来、使い続けている直火釜。時間をかけて佃煮を煮ていくので、工場内はかなり暑くなります。香ばしさを乗せつつ、決して焦がさないためには職人の経験や技術が不可欠です。
そして、もう一つこだわっていることは、昔ながらの「直火釜」を使って煮る製法。直接、釜に火を当てて加熱するので、焦げ付かないよう、中身の分量やその日の気温や湿度などに合わせ、職人が大きなヘラでかき混ぜながら、つきっきりで火加減を調整する製法です。創業以来、この直火釜を使うわけは、釜内部での対流によって熱い釜の内側に触れた素材に醤油の風味がよく乗り、なんとも香ばしい風味が出るからだそう。また、長年の製法を受け継いだ職人の絶妙な火加減で、ふっくらと仕上がることも大きな特長です。
▲釜の下にある釜を支える釜つばも、職人がいなくなってしまい、もうつくることができない部品と言われています。
現在では、この直火釜を使う佃煮屋はとても少なくなり、そもそも釜を押さえる釜つばをつくる職人がいなくなってしまっていると言います。それでも遠忠食品では、この直火炊きの製法こそが“遠忠の佃煮らしさ”の原点だとして、この伝統的な方法を残していきます。
遠忠食品と量産品の海苔の佃煮の違いは、使っている海苔の量だと宮島さんは言います。確かに遠忠の海苔の佃煮を口に含むと、「ぎっしりしている」という印象を受けます。また、醤油の味のやさしさがなんとも言えないバランスで口の中に広がります。佃煮を食べ慣れている人はぜひ食べ比べてみてください。味の違いがよく分かるかと思います。
▲木更津・盤洲干潟の生海苔から炊いた佃煮。海苔の量、風味、醤油の味わい、すべてが豊かで、試食してもらうと買い求める消費者が多いというのも納得。
「スーパーで売っている量産品を食べて、それが海苔の佃煮と思われると悲しい」と話す宮島さん。消費者と直接出会えるマルシェやイベントなどに積極的に出店し、遠忠の佃煮を一口でも食べてもらえるよう働きかけています。「消費者の声を聞くことでニーズを発見できたり、前に買っておいしかったのでまた買いに来た、と言ってもらえたりすると、本当に嬉しいですよね」とも言います。
そして、もう一つ、宮島さんには大きな目標があります。それは、若いお母さん世代にも佃煮を食べてほしいということ。そして、佃煮を食べたことがない、知らないという子どもたちに、日本の伝統的な食文化として伝えていきたいということです。そのための一環として平成22年には、無添加、国産の加工食品や有機野菜などを販売する直営店、遠忠商店をオープンさせました。店には子どもに安心・安全な食品を、と考えるお母さんたちが多く訪れ、今では地元に定着しています。
▲海苔の佃煮をはじめ、江戸前のアサリ、ハマグリ、ホンビノスといった貝類などさまざまな種類がそろっています。季節に合わせたり贈答用にしたりと、選ぶ楽しさもいろいろです。
生産者との信頼関係を大切にし、無理のない原料調達法を選びつつ東京湾を守る取り組みにつなげ、日本の食文化を伝えていく、そんな大きなサイクルが宮島さんの周りで確実に循環しています。どこか懐かしい、そしてもっと「米」を食べたくなる、そんな遠忠の佃煮をぜひ味わってみてください。
■遠忠商店 本店
〒103-0014 東京都中央区日本橋蛎殻町1-30-10 宮島ビル1階
営業時間11:00~19:00 日曜・祝日定休